ようこそ医療ジャーナリスト・医学博士、森田豊の公式ブログへ。

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1963年東京都生まれ。88年秋田大学医学部卒業。95年東京大学大学院医学系研究科卒業。96年東京大学医学部附属病院助手を務め、97年ハーバード大学医学部専任講師。2000年埼玉県立がんセンター医長。04年板橋中央総合病院部長。現在は、現役医師、医療ジャーナリストとして、テレビ、雑誌等のメディアで活動中。さまざまな病気の概説や、医療に関する種々の問題に取り組む。

2009年11月15日日曜日

新型インフルエンザワクチン投与開始により現場は混乱?

 ワクチン1回投与、2回投与など、一転二転しましたが、国内でも新型インフルエンザワクチンの投与が開始されました。そんな中で重大な問題があがってきています。以下に列挙します。
●現場でもっとも問題になっているのが供給されたワクチンの形状です。 ワクチンの1回接種量は、新型も季節性も、成人(13歳以上)0.5 mlで、最も少ない量で0歳児が0.1 mlです。従来の季節性のワクチンは、1 ml容器で供給されていましたが、新型ワクチンは、10 mlと1 mlが混在して供給されました。そして、10 mlの容器の方が多く供給されているようです。生産効率を上げるためだったようです。計算上は20名~100名分のワクチンが1容器に同梱されていることになります。そして、10ml容器中の薬液は、24時間以内に使い切る必要があるのです。一つの容器を開けたら、20名~100名分の人をあつめて24時間以内に使い切らなければならないということは、余分で捨てなければならない無駄なワクチンが生じてしまうことになります。特に一人の投与量の少ない小児科では、一日の摂取患者数をかなり多くしないと、あまったワクチンを捨てなければならないことになります。まさしく小児科の現場は戦場ですね。
国会でも、この問題が取り上げられ、舛添前大臣の「10 mlを使ったら無駄に廃棄することになる」という質問に対し鳩山首相が「破棄されてはならないと思っている」と答弁されています。http://lohasmedical.jp/news/2009/11/06122858.php
11月12日、鳥取県の病院で、余った新型インフルエンザワクチンを職員親族に接種したことが各紙で報じられました。 (2009/11/11読売新聞、朝日新聞、日本海新聞)。 記事の読者は「皆が希望する新型ワクチンを、便宜を図って身内の職員親族に接種するとはなんとずるい病院だろう」と思った人も多いのではないでしょうか。しかし、仮に病院が薬液を破棄していたらどうでしょうか?。その場合「大切な新型ワクチンを破棄していた病院」と報道されていたかもしれません。11月14日になって「新型ワクチン、不便な大瓶 10ミリ、一度に使い切れず」と題す
る記事が朝日新聞に掲載されました。この問題にメスをいれた朝日新聞は大変すばらしいと感じます。ともわれ、この10mlの問題、国も何らかの方針を出すべきではないでしょうか?

●第一優先接種対象である医療従事者ですが、医療側からの必要量と、供給量に大きな差がありました。供給量が少ないので、投与されない医療従事者からの愚痴をよく耳にします。医療従事者の中でも、直接インフルエンザ患者に接する可能性の高い診療科や医療従事者ということに限定されました。しかしながら、この定義が、とても曖昧で、それぞれの病院が独自の考えで対象となる医療従事者を決めているのが現状です。
医師と看護師のみなのか、看護助手、事務も含めるのか、それもすべて各病院で決めることなのです。たとえば、40才以上は、最もインフルエンザに暴露される機会の多い小児科医師でも感染するリスクは低いから投与しないという大学病院もあったり、ほとんどインフルエンザ患者に接する機会のない診療科の医師にも投与していたり、ほとんど患者と接する可能性の少ないところで働いていた薬剤師らにも投与していたり、まったくまとまりのない状況です。病院の中では、なんで「彼らが投与されて、私が投与されないの?」といった意見も耳にします。中には、「私に投与した方が、お国のためになるのでは?」、といった危ない発言も耳にします。根元には、厚生労働省が、それぞれの診療科やインフルエンザに関わる医療従事者の数を把握していなかったことに問題があると思います。どこの病院にどれだけのインフルエンザワクチンを配給するかについても、今回は、病院の申請数を考慮して、それよりも少ない数を配給したわけです。製造期間中、配給する前にかなり時間があったのにも関わらず、どうして、もっとよく調査しなかったのでしょうか?そして、供給量不足ということはかなり前から分かっていたことですから、誰もが納得する一定の基準を、なぜつくらなかったのでしょうか?現場は混乱します。そして何よりも、医療従事者を介する感染拡大を防止するということが目的なのですが、この病院間の投与基準格差により、施設による感染拡大の予防効果に大きな隔たりが出てしまったようにも思います。