ようこそ医療ジャーナリスト・医学博士、森田豊の公式ブログへ。

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1963年東京都生まれ。88年秋田大学医学部卒業。95年東京大学大学院医学系研究科卒業。96年東京大学医学部附属病院助手を務め、97年ハーバード大学医学部専任講師。2000年埼玉県立がんセンター医長。04年板橋中央総合病院部長。現在は、現役医師、医療ジャーナリストとして、テレビ、雑誌等のメディアで活動中。さまざまな病気の概説や、医療に関する種々の問題に取り組む。

2009年12月24日木曜日

10年ぶりの診療報酬引き上げには、どんな意味があるんでしょう?

以下は、12月24日放送、ニッポン放送、お早うGoodDayでお話した内容です。
政府は、2010年度診療報酬の改定率について、全体で0.19%の引き上げることを決めました。これまで10年は「マイナス改定」で、プラス改定は2000年度以来、10年ぶりです。この引き上げで、長妻厚生労働大臣は「医師不足を解消させたい」としていますが、果たして効果はあるのでしょうか?
以下に私の考えを列挙します。
●小泉政権以来、医療費はずっと抑えられてきました。これがやっと増加に転じたことには、歴史的政治的には意義はあります。しかしながら、診療報酬の引き上げは、医師不足や医療崩壊を防止するための改革には、ほとんどつながらないと考えます。
●国民の負担としては、診療報酬が0.19%増加という数値は、平均年収の方では、保険料が年間285円、外来窓口負担金が一ヶ月あたり7.8円の増加で、それほど大きな問題ではないかもしれません。しかしながら、失業率が高く景気がわるい我が国の国民の負担が少しなりとも増加するのに、もし、あまり大きな効果が望めないとしたら、残念なことです。
●民主党としては、政権交代をして、これまで自民党による医療費削減ということから脱却する、または、政治主導にしたいという、民主党の「何かしたい」というアピールだったようにもとれます。
●特に、長妻厚生労働大臣は「10年ぶりの引き上げによって、医師不足が深刻で非常に厳しい状況に陥っている救急医療や産科、小児科などの体制を充実させるきっかけになると思う」と述べました。しかし、私は、救急医療や産科小児科の体制充実にはつながらないと思います。開業されている医師に対しては、少しの増収はあるかもしれませんが、勤務医にはおいては、診療報酬が増加しても、給与が変わるわけではありません。増えた報酬は、病院経営維持のために回されるのが慣例ですね。救急医療や産科、小児科から医師がいなくなるのは、激務に加えて訴訟のリスクが高いためで、仮に給与をもっと大幅増加させても効果はあまり期待できないと考えます。
●現在の医療が抱えている最大の問題は、第一に、「診療科別の医師数の偏在」。たとえば、救急医療、産科、小児科の医師が慢性的に不足しつつあることです。いわゆる、重労働で訴訟のリスクの高い診療科医師のなり手が少なくなっていることです。第二に、「地域別医師の偏在」。地方では、医師不足のため、近くに通う病院がないという状況まで生じています。
●これらを改善するには、「診療報酬や医療費アップ」では効果は望めません。第一の「診療科別の医師数の偏在」には、診療科別の医師の定員化等を検討すべきです。このようなシステムを構築できるのは、厚生労働省だけです。第二の、「地域別医師の偏在」には、たとえば国公立大医学部出身者に、その地域にある期間、残ってもらうようなシステムを作ることも一つの案ですね。
●診療報酬のような「お金」で、医療崩壊を解決しようとするのではなく、もっと現状を把握した上で、「知恵や英知」で、システム作りをすることの方が重要に思えてなりません。

2009年12月8日火曜日

新型インフルエンザの国別死亡率では日本が最も低い

12月8日、フジテレビ、FNNスピークで一部コメントした内容です。
日本では、新型インフルエンザの重症化率や死亡率が低いことや、その理由を記載しました。国内では、季節性インフルエンザにおける死亡率にくらべて、新型インフルエンザでは、10分の1から、50分の1の死亡率と言えます。
また、日本がタミフルなどを容易に使用できる環境にあることなどの特徴性もしめしてあります。
●11月6日のWHOの発表によれば、日本における新型インフルエンザ患者の重症化率(入院した率)は10万人に2.9人、死亡率は100万人に0.2人と、数十カ国の中で最も低い。最も死亡率が高いのは、アルゼンチンで100万人に14.6人でした。日本での死亡率はアメリカの30分の1、世界平均の数百分の1です。なんで日本では、重症化率や死亡率が最も低いのでしょう?。 
●これは、日本において、タミフル、リレンザといった抗インフルエンザ薬の供給が十分であり、医師が積極的に処方し、患者も服用できるといった背景に基因する結果と思います。
●たとえば、アメリカでは、米疾病対策センター(CDC)が 「健康な人は新型インフルエンザに感染しても、タミフルやリレンザなど 抗ウイルス薬による治療は原則として必要ない」とする方針を発表しています。供給に限りがあること、耐性ウイルスの出現の恐れなどを理由に挙げています。  逆に日本では、感染症学会が「インフルエンザかどうかわからない疑い例であっても、積極的にタミフルを投与すべき」という方針を発表しています。日本では、インフルエンザキットで陰性の結果がでても、医師の裁量でタミフル、リレンザを処方できるわけです。その結果、日本でのタミフルの同じ人口あたりの消費量は、米国の20倍以上とも言われています。
「熱発したらすぐ医者に行く」国民性の国(日本)と、「熱が出たくらいでは医者には行かない」という国民性の国(他国)では、後者の方が有意に致死率は高くなるのでしょう。
●厚生労働省の徹底的な水際対策から始まり、連日、繰り返された様々なメディアでの積極的な報道姿勢は、我が国では特徴的でした。世界の中でも、我が国は国民全員が、新型インフルエンザに対してとても過敏になったのです。熱発したらすぐ医者に行くという傾向を生み出したのかもしれません。そして、タミフル、リレンザが、他の国より多く処方され、新型インフルエンザの国別死亡率では日本が一番低いという結果になったのだと考えます。
●しかしながら、我々は、この結果を慎重に見なければなりません。まずは、これだけタミフル、リレンザを積極的に多量に使用している我が国は、将来的には、これらの薬の効かない耐性インフルエンザウィルスを生み出す確率も高くなることです。また、グローバルな観点からは、タミフル、リレンザが国際的に偏在なく供給され、必要欠くべからざる人にのみ投与されるのが、正論のようにも思えてなりません。