ようこそ医療ジャーナリスト・医学博士、森田豊の公式ブログへ。

森田豊医師の公式HP(http://morita.pro/)はこちらからご覧ください。
1963年東京都生まれ。88年秋田大学医学部卒業。95年東京大学大学院医学系研究科卒業。96年東京大学医学部附属病院助手を務め、97年ハーバード大学医学部専任講師。2000年埼玉県立がんセンター医長。04年板橋中央総合病院部長。現在は、現役医師、医療ジャーナリストとして、テレビ、雑誌等のメディアで活動中。さまざまな病気の概説や、医療に関する種々の問題に取り組む。

2016年10月21日金曜日

「名医信仰は日本を滅ぼす」『モーニングCROSS』

TOKYO MXテレビのニュース情報番組『モーニングCROSS』(モーニングクロス)に、水越孝さん、北条かやさんらと出演しました。堀潤さん、宮瀬茉祐子さんがMC。
私の今日のオピニオンCROSSは、

「名医信仰は日本を滅ぼす」

平均寿命は高まり、健康に関する関心が高まりつつありますが、いくつになっても、がんなどの大きな病気の診断をされたら、だれでも、動揺するものです。
その際に誰でも考えることは、腕のよい名医と呼ばれている医師に執刀してもらいたいと願うこと。
しかしここには落とし穴があります。本屋さんにいくと、「日本の名医を紹介」、「名医が選んだ日本の名医」、「名医ナビ」などの本が並んでいます。現在の医療制度からすると、名医の勤務する病院へ、自分の意思によって、あるいはかかりつけ医の紹介状などによって受診することは原則として可能です。
しかし、いわゆる名医と呼ばれるところに、患者さんが集中すると、診断されてから手術まで、2,3ヶ月待たされることも決して稀ではありません。良性疾患の手術などは、2年待ちなんて病院もあります。その結果、がんの進行期や、病状は進行してしまうことも多いんです。例えばがんになったら、最低5年間は、最初は頻回に、その後は1か月~数か月に一回、数院しなければなりません。再発したら再入院しなければなりません。何時間もかけて名医のいる遠い医療機関に通い、何時間も待たされて診療をうけることは、生活の質(QOL)の低下につながります。そういった生活の質を考えると、通いやすい病院に、ある程度家から近場の病院に行くことが大切だと思うんです。
もちろん、一年間に同じ診断の患者さんの手術を数例しかしていないというなら、別の病院に行ってみたほうがいいでしょう。ただし、同じ術式で、一年間に40例手術している病院と、400例手術している病院で、それほど腕がちがうんだろうか?と思うと、それほど変わりがないように思います。
 
例外はあります。あまり執刀できる医師が多くない頭頚部のがん、かなり進行しているがん、納得のいく説明を受けることができないなどの場合には、名医に診てもらい適宜治療を受けるべきです。初期のがんや、中期のがんは、前述の条件を満たせば、治療のプロトコールに病院間によってそれほど差はなく、生活の質を考えて、過度な名医信仰をやめるべきだと思います。生活の質を保つために、名医信仰をやめるんです。
 
この先、2025年問題を前に、患者は増え、医師は少ない状態がより一層加速されます。
名医信仰が続くと、名医の一部はヘッドハンティングされ、自由診療で高額の医療費がかかる病院に移ってしまう危険性も少なからずあります。

名医には、名医でなければできない手術をしていただき、適材適所で医師も人のために効率的に働くべきです。なんといっても、個々の患者さんの治療にふさわしい規模の病院、ふさわしい治療の情報をもっている「かかりつけ医などの医師」が重要な役割を演じるんじゃないかと思います。
初期のがん、中期のがんの方は、進行したがんや治療方針が分かれて困っている方のために、名医の腕を空けておいてあげるべきなんだと思います、そのことが自分の生活の質の向上にもつながるんだと思います。