ようこそ医療ジャーナリスト・医学博士、森田豊の公式ブログへ。

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1963年東京都生まれ。88年秋田大学医学部卒業。95年東京大学大学院医学系研究科卒業。96年東京大学医学部附属病院助手を務め、97年ハーバード大学医学部専任講師。2000年埼玉県立がんセンター医長。04年板橋中央総合病院部長。現在は、現役医師、医療ジャーナリストとして、テレビ、雑誌等のメディアで活動中。さまざまな病気の概説や、医療に関する種々の問題に取り組む。

2016年10月14日金曜日

医師から見たドクターX(医療監修・森田豊)

私は、医師として複数の大学病院、総合医療センター、がんセンター、警察病院、民間病院、診療所等にて診療・研究・教育に従事してきました。ハーバード大学の関連病院(MGH)でも2年あまりアメリカの効率的な医療も見てきました。日本の医療の現場には、白い巨塔に象徴されるような封建社会が、今でも根強く存在しています。医療は経験によるところが多く、経験豊かな医師の判断が正しい場合も多く、昔ながらの封建的な仕組みによって病院内、医局内の秩序と規律の保持が維持されていることは確かです。また教授のようなリーダーの強い人事力のおかげで、たとえば過疎地への医師派遣など医師の偏在化の是正にも貢献してきたものと考えます。 
しかしながら、この日本における封建的な医療社会には、大きな問題も潜んでいます。正しいことを若手医師がいっても上司に聞いてもらえられない。腕の良い医師がなかなか活躍できずに潰されてしまう。教授などのリーダーに気に入られたものだけ、いわゆるイエスマンだけが、出世していくなどです。教授や医局の地位や名声、研究のために、患者の命が軽んじられることもあるようです。そして、従来の教授回診のような大名行列的な非効率的な事項も多く、時間の浪費、古き悪しき伝統が残っているのも事実です。

私自身も、長年にわたって改善を試みてきました。私が部長職として手術などの17人の医師らの陣頭指揮をとっていた病院では、一年目の医師から年配まで自由に活発に意見を言うことを美徳とし、非効率的なことは可能な限り排除し、時間の浪費を少なくし、勤務時間を徹底し、基本的には17時には医師の帰宅を目指しました。当番に残った医師と、オンコールの医師とで、対応していました。効率化を行って医療レベルが下がってはいけないものと考え、医療事故防止のための第一エンジン第二エンジン第三エンジンシステムのシステム稼働も確立させ、メリハリのある診療体制の構築に努力してきました。

効率よき医療体制の確立。上下関係にかかわらず患者に有益に働く意見を率直に言える医師を育てる。有能な若手医師をどんどん抜擢すること、これが今の医療に求めらるのだと思います。出産や育児などで女性医師らが現場を離れざるを得ない状況が継続しまだまだ医師不足の状態において、患者さんの高齢化は進み、2025年問題では確実に大変な医師不足状態となります。効率的な医療体制を作り、また医師免許を持っていなくてもできることは、医師はやるべきではありません。

2012年に東京大学付属病院で冠動脈狭窄を診断された陛下が、東大病院のスタッフによって手術が行われたのではなく、学生時代は必ずしも優等生とは言えず、完璧な経歴とは言えないが、執刀経験が豊富で腕の良い天野先生が手術をされていました。記者会見などのご様子をみて、いろいろな思いが募りました。医療は、学歴や学閥にとらわれず、心があり上手な人がどんどんリーダーとして活躍しなければならない時代がきたのかと思いました。

ちょうどそのころ、ドクターX、シリーズIの制作の医療監修を受けてくれという話をいただきました。上記のような思いがなかったらきっとお受けできなかったと思っています。

私の脳裏には、この大きなドラマで、医療改革ができるのかもしれない。いままで何百年もできなかった医療の歴史が少しでも変わるのかもと思いました。ドラマの影響もあるのか、この数年で徐々に教授回診も少なくなり、効率的運営をしている病院も多くなってきたように思います。

様々な番組の監修、出演をやってきましたが、このドクター-Xの監修を担当できたことは最もやりがいのある仕事の一つでした。2012年のシリーズIの放送時は、大学医局等からのパッシングも多いかと思い、正直、怖かったです。
今回のシリーズⅣでも、世の中の人たちが心の底から楽しんでいただき、医療の内情を多少のフィクションも含めてご理解いただき、どんな疾患にも希望を捨てない心を持っていただきたいです。また、医療従事者、そして職種をとわず、効率よい勤務と、リーダーシップの正しいあり方を考えるきっかけになればと願う次第です。